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「スポーツを読む」第24回中村憲剛『ラストパス 引退を決断してからの5年間の記録』KADOKAWA(2021年)

 川崎フロンターレ一筋18年の中村憲剛が、引退を決断してからの5年間を振り返っている。35歳だった2016年に40歳での引退を決意した。個人のことも、チームのことも、赤裸々に書いている。特に印象的なのが、2017年と2020年だ。


 フロンターレは2016年まで準優勝を7回経験したのに対して、優勝は0だった。タイトルは悲願であった。そんな中挑んだ2017年シーズンで、J1を制した。

人一倍タイトル獲得を喜んだのが中村だった。試合が終了し、優勝が決まった瞬間、中村は膝から崩れ落ちピッチにうずくまって泣いた。この試合を観戦しに行っていた私も、中村の姿を見て、涙が止まらなくなった。2017年は、優勝するまでにいくつもの苦悩があった。チームとして調子が上がらなかった序盤戦やまたしても準優勝に終わったリーグカップ。喜びだけでなく、もどかしさや苦しみも書かれている。

 2019年、中村は前十字靭帯損傷というサッカー選手にとって致命的ともいえる大けがに見舞われた。翌年引退しようと決めていた中での大けが。しかし中村は「ここから甦り、J1の舞台で活躍して引退する。誰もやったことのないことにチャレンジして多くの人に勇気や希望を与えることが選手としての終わりかもしれない」という思いのもとにリハビリを続けた。

そして迎えた復帰戦、後半32分から301日ぶりの出場を果たすと、ゴールを決めた。コロナ禍で観客は5000人も入らない。声も出せず、応援は拍手のみだった。2020年、フロンターレは2冠を達成したが、その優勝した瞬間よりもこの時のほうが私はうれしかった。会場の拍手も大きかったように思える。

 「ラストパス」はプレーについてと同じくらい家族について書かれている。3人目の子供誕生の瞬間や、引退を報告したときの家族の様子、夫婦間での密なやり取りなど、家族を大切にしてきた中村だからこそ書ける暖かい話が多く出てくる。息子の龍剛が引退セレモニーで読んだ手紙が巻末に添えられている。家族として、サポーター代表として、小学6年生だった龍剛が一人で書いた手紙をぜひ読んでほしい。

 順風満帆な生活を送った選手ではない。学生時代は決してプロ注目選手ではなかったし、長い間優勝に縁がなく、妻の命が危ぶまれたこともあった。しかし自分に矢印を向ける、つまり自分にコントロールできることに集中して成功を収めた。中村憲剛を知っている人でも知らない人でも、人生について考えられる。そんなラストパスがちりばめられた一冊だ。


(江戸川大学マスコミ学科、竹田颯汰)

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