2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本を優勝に導いた栗山英樹が、自らの野球哲学を北海道日本ハムファイターズの監督時代に記したベストセラーである。戦術からリーダー論まで多岐にわたる内容を歴史上の偉人や経営者などの成功者の言葉と結び付けて論じている。著者が日々の考えを綴った野球ノートを基にした一冊である。野球はもちろん、組織マネジメントやリーダーシップについても多くを学ぶことができる。
栗山はヤクルトスワローズでプレーしたが、メニエール病という耳の病気により現役生活9年で引退した。ドラフト外で入団し、決して順風満帆な野球人生を歩んできたわけではなく、だからこそ監督としては、選手やコーチとのコミュニケーションを何より重視した。その姿勢が本書全体に表れている。
本書は儒学の礎である「四書五経」と呼ばれる中国の代表的な古典からの引用が多い。第3章「ためらわず」では、孟子が残した「一日之を暴(あたた)め、十日之を寒(ひや)さば、未だ能(よ)く生ずる者有らざるなり」という言葉を紹介している。努力をしても怠ることが多ければ身につかないという意味だ。
ここで著者は「努力の貯金」という言葉も使っている。努力はできる時に行い、それを貯金する。この二つの言葉は相反しているように聞こえるが、努力を怠ってしまっては貯金すらできない。つまり、両者とも根本は同じだと説いている。
これは野球選手だけでなく、私たち大学生を含む子供から大人まですべての人が心に留めておくべきものだろう。一時の努力では努力の意味がない。努力をし続けることが最も大事なことなのだと私自身も感じた。教訓を与えるのでなく、著者自身の決意として述べられている点も心に響いた。
現代社会で生活していくうえで持っておくべき心構えや人とのコミュニケーションについて、深く考えるきっかけをこの一冊が私に与えてくれた。
(江戸川大学マスコミ学科、黒田貴明)
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