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【ラグビーを読む】第3回 池井戸潤『ノーサイド・ゲーム』ダイヤモンド社(2019年刊)


 2019年に大泉洋の主演で実写ドラマ化された作品で、皆さんも一度はタイトルを目にしたことがあると思います。


 本書のタイトルは第五章のクライマックスに凝縮されていて、やはりここが最も印象に残ります。ラグビーがラグビーたる理由、主人公の君嶋隼人が「これがラグビーか」と心の中でつぶやく場面です。

 試合には「残酷な明暗が存在するものだ」と池井戸潤は書きます。そして勝者と敗者の対照的な姿を描きます。ですが直後に「だが、このときは違った」と続けるのです。

 ラグビー好きならもう分かってしまいますね。ノーサイドの精神です。勝ち誇る勝者も、悲嘆する敗者もいない。この場面は、勝ち負け関係なく互いに称賛するラグビーの伝統があってこそです。


 君嶋はラグビー経験がないにも関わらず、人事異動で社会人ラグビーチームのゼネラルマネジャーを務めるはめになります。そしてラグビーの魅力に絡めとられ、チームに全てを注ぐようになるのです。君嶋に歩を合わせるように、読者もクライマックスへ向けてラグビーに吸い寄せられていきます。


 フィールドで輝く選手を描いた池井戸は、試合後の描写に「スタッフたちもだ」と付け加えます。スタッフも含めたチーム全体が、選手と同じノーサイドの精神を持っている。これがこの小説の魅力で、読者も知らず知らずのうちに「スタッフ」の一員になっていたのだと実感します。

 ドラマを観た方も観ていない方も、ぜひ読んでみてください。


(江戸川大学マスコミ学科、逸見洸縁)



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