ラグビーを題材にした書籍や映画を紹介する不定期連載を始めます。題して「ラグビーを読む」。児童書の紹介ではありませんが「いつかこんな本を読んでほしい」というのが、連載に臨む思いです。保護者の方々に読んでいただければという気持ちも、もちろんあります。第一弾は、ラグビーライターの第一人者、藤島大の『人類のためだ。』です。
本書は、50を超えるラグビーエッセーの選集となっており、各エッセイは、春は出会いと別れ、夏は終戦など、季節から連想されるテーマに沿って春夏秋冬に振り分けられ、四季を辿る形で編成されています。
今回は中でも最も印象に残った「予期せぬ自分」というエッセイを紹介します。ポジションやルールにおいて、その人らしさを明快に求めるラグビーの特徴を捉え、他者に評価されることでより自己を愛せるようになるという内容を取り上げています。
「スポーツの、ことにラグビーの喜びの核心とは、『他者から求められる瞬間』にある」
人は自ずと「本当の自分」にふさわしい居場所を探そうとしますが、それはあらかじめ用意されているものではありません。監督から、コーチから、仲間から、指示を受けることで、その役割を全うするよう努めるはずです。そしてその時、自分の「予期せぬ能力」に気づき、チームのために、勝つために、損得を抜きに没頭するのです。自分こそがという露骨な自己愛を忘れることで、自身の思わぬ能力に出会うことができます。
私は小中高校の約10年間、吹奏楽部に所属していました。吹奏楽においても仲間を活かすための演奏がたくさんあります。「〇君の裏メロのおかげで主メロが際立つ」「△さんがリズムを刻んでくれるからみんながリズムを取りやすい」。1曲を演奏するのに、ずっと誰かが目立つ演奏方法では、チームとして、曲として成り立ちません。誰かが誰かを支えるプレーがあって初めて一つの作品が完成するのです。
このように、本書はラグビーの専門的知識だけが綴られているわけではなく、ラグビーを通して得られた教訓なども多く綴られており、ラグビー経験がなくてもとても読みやすい作品であると思います。まずはラグビーに触れたい! そんな方にオススメの一冊です。
(江戸川大学マスコミ学科・宍倉麻以)
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